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東京地方裁判所 平成7年(フ)3714号 決定 1996年3月28日

平成七年(フ)第三六九四号破産申立事件債権者 夏井一男 外四四名

右債権者ら代理人弁護士 宇都宮健児

同 芦原一郎

同 飯田伸一

同 飯田正剛

同 池末彰郎

同 石井麦生

同 伊藤幹郎

同 伊藤芳朗

同 生駒巌

同 大川康平

同 大森浩一

同 小野毅

同 折本和司

同 釜井英法

同 川合晋太郎

同 木村裕二

同 三枝基行

同 櫻本義信

同 清水勉

同 杉本朗

同 瀧澤秀俊

同 滝本太郎

同 武井共夫

同 遠山秀典

同 中村裕二

同 南雲芳夫

同 野嶋真人

同 林和男

同 本間豊

同 山口廣

同 山下潔

同 横松昌典

同 渡邉彰悟

同 伊東良徳

同 植村誠

同 紀藤正樹

同 竹下博徳

同 横山國男

同 岡田尚

同 小島周一

同 三木恵美子

同 芳野直子

同 山崎健一

同 杉本吉史

平成七年(フ)第三七一四号破産申立事件債権者 国

右代表者法務大臣 長尾立子

債権者指定代理人 五十嵐義治 外一七名

平成七年(フ)第三六九四号、第三七一四号破産申立事件債務者 オウム真理教

右代表者清算人 小野道久

主文

債務者オウム真理教を破産者とする。

理由

第一  申立債権の存在

一  債務者の組織及び甲野一郎の地位について

証拠(なお、以下の理由記載において主な証拠を摘示する場合には、平成七年(フ)第三六九四号事件の甲号証を「民甲○」と同年(フ)第三七一四号事件の甲号証を「国甲○」と、送付嘱託にかかる刑事公判記録を「A公判記録」、「B=C公判記録」とそれぞれ表示する。)によれば、次の事実を認めることができる。

1  債務者の組織

(一) 債務者の設立、目的等

債務者は、平成元年八月二九日、甲野一郎(以下「甲野」という。)をその代表者として、「主神をシヴァ神として崇拝し、創始者甲野一郎はじめ真にシヴァ神の意思を理解し実行する者の指導のもとに、古代ヨーガ、原始仏教、大乗仏教を背景とした教義をひろめ、儀式行事を行い、信徒を教化育成し、すべての生き物を輪廻の苦しみから救済することを最終目標とし、その目標を達成するために必要な業務を行う。」ことを目的として設立された宗教法人である。債務者は、平成七年三月当時、主たる事務所を肩書住所地に、従たる事務所を静岡県富士宮市人穴字下広見三八一番一にそれぞれ置き、国内に二四か所の本部又は支部を、国外に四か所の支部をそれぞれ設けていた。また、債務者に所属する出家信徒の数は約一四〇〇人、在家信者の数は約一万四〇〇〇人と称されていた。

(民B甲七九、国甲二、甲三、甲一二)

(二) 債務者の解散

債務者は、東京地方検察庁検察官検事正及び東京都知事の請求に基づく解散命令(東京地方裁判所平成七年一〇月三〇日決定、東京高等裁判所同年一二月一九日抗告棄却決定、最高裁判所平成八年一月三〇日特別抗告棄却決定)によって解散し、東京地方裁判所により、その清算人として弁護士小野道久が選任された。

(国甲三、甲一二、甲一五)

2  甲野の地位

(一) 甲野は、設立以来前記解散まで代表役員の地位にあった。

債務者の規則(宗教法人「オウム真理教」規則)によれば、代表役員は九人の責任役員の互選により選任され、債務者を代表し、その事務を総理する権限を有し、代表役員以外の責任役員は信徒及び債務者に在籍する大師のうちから総代会の議決を得て代表役員が選任し、総代会を組織する総代は信徒及び右大師のうちから責任役員会の議決を得て代表役員が選任するものとされ、また、信徒とは債務者の教義を信奉する者で、代表役員の承認を受けたもの、大師とは債務者の教義を信奉する者で信徒を正しく指導することができると代表役員が認めたものとされている。

このように、債務者においては、規則上、責任役員、総代、信徒及び大師のいずれについてもその選任を代表役員の意思にかからしめて、代表役員である甲野が、すべての人事権を握り、債務者の組織を全面的に掌握・支配する体制となっていた。

(二) さらに、甲野は、オウム真理教の教祖(「尊師」と呼称されている。)であり、「最終解脱者」等と称して自らを信仰対象にもしていたため、同人の債務者における地位・影響力は、オウム真理教の教義ないし信者らが甲野に寄せる信仰心ともあいまって、規則上のものにとどまらない絶大なものがあった。

すなわち、甲野の行った説法が編集されている教本が債務者から発行されているところ、右教本において、甲野は、信者に対し、「帰依とは何かというと、これはグル(甲野)を絶対的に信じ、そしてグルに対して奉仕あるいは供養、あるいはグルの説いた戒め、この戒めには禁戒、勧戒両方あるわけだけど、これを実践するということである。」(国甲八の二八頁)などと説き、グルである甲野に対して絶対的な帰依と服従を求め、信者らもこれに応えようとしていた。

(三) また、甲野は、債務者の教義の実践、遂行の効率化、すなわち、甲野の意思の絶対的効率的遂行を図る目的等から、平成六年六月ころ、「神聖法皇」と称して自らを組織の頂点とする国の行政機関に模した省庁制を導入し、科学技術省、建設省、自治省、厚生省、大蔵省、治療省等合計二二の省庁を設置したうえ、各省庁の大臣及び次官を任命した。そして、右大臣及び次官に任命された者は、その就任に際し、甲野への帰依と忠誠を誓約した。

右の省庁制とは別に出家信者は、尊師甲野のもと、概要「正大師、正悟師、師長、師長補、師、師補、サマナ、サマナ見習」等の階級(債務者内では「ステージ」と呼ばれていた。)に区分され(右区分は平成六年夏ころのもの)、甲野はもとより、他の上位のステージにある信者からの指示は絶対とされていた。このステージは、甲野が、その出家信者の暝想体験、修行及びワークと呼ばれる上位者からの指示による作業の達成度に基づき認定するものとされていた。

このように、債務者は甲野を中心に強い結束力によって統合されており、甲野の意思が絶対とされ、その指示によって教団意思が形成されるといえる状況にあった。

(民B甲七九、国甲二、甲三、甲一二、A公判記録甲一一八九九)

二  松本サリン事件及び地下鉄サリン事件に関する申立債権について

1  甲野によるサリン(化学名「メチルホスホノフルオリド酸イソプロピル」)生成の計画等

証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 甲野は、かねてから、信者に対し、いわゆるハルマゲドン(最終戦争)の到来や債務者への毒ガス攻撃等の予言と説法を行う一方、その教義・思想を実現するため、一部の信者を使って毒ガスを大量に生成し、これを散布して多数人を殺害することを計画し、信者D(その地位は科学技術省大臣にして正大師。)を毒ガス大量生産の総括責任者としたうえ、平成五年六月ころ、同人を介して、信者E(その地位は第二厚生省大臣にして師長。)に対し化学兵器(毒ガス)の大量生産についての研究・開発を指示した。また、甲野は、平成五年三月ころ、信者F(その地位は自治省大臣にして正悟師。)に指示して、信者Gに、毒ガス生成用の化学薬品等購入のためのダミー会社である GI株式会社及び株式会社 GIIを設立させた。さらに、甲野は、平成五年三・四月ころ、信者H(その地位は建設省大臣にして正悟師。)に対し、毒ガス生成プラント用の建物を建築するように指示した。

(国甲一二、B=C公判記録甲四七、四九)

(二) Eは、右指示を受けて、毒ガスであるタブン、サリン、ソマン、VX等に関する文献等を検討し、殺傷能力、原料入手の容易性、生成工程の安全性等を考慮して生成対象にサリンを選択し、その旨Dに報告した。

なお、サリンは、自然界には存在しない人工の有機リン系化合物であり、生物の神経系を侵す神経ガスの一種であって、人を殺害すること以外に用途はなく、人体には、口、呼吸器、皮膚等全身の体表面のいずれからも侵入し、極めて迅速に作用して人を死に至らしめ、少量でも非常に広範囲の地域に拡散して多数の人を殺害することができるものであって、休息中の人を対象とした場合、一立方メートル当たり一〇〇ミリグラムのサリンが存在すれば一分間で半数が死亡し、穏やかな作業をしている人を対象にした場合、一立方メートル当たり七〇ミリグラムのサリンが存在すれば一分間で半数が死亡するといわれているものである。

(民B甲七三の三、国甲一二、B=C公判記録甲四七、A公判記録甲一一八八〇)

(三) Hは、前記指示に従い、配下の信者に命じて、平成五年九月に山梨県西八代郡上九一色村富士ヶ嶺九二五番地の二に三階建鉄骨建物(以下「第七サティアン」という。)を建築させた。さらに、Hは、甲野の指示を受けて、同年八月ころ、配下の信者に、Eがサリン生成の実験を行うための建物として、クシティガルバ棟を建設させた。

Dは、Eから生成対象をサリンとする旨の報告を受けて、サリンを一日二トン生成する能力のある化学プラントをつくり、同プラントにおいて合計七〇トン生成することを計画し、甲野の了解を得たうえ、平成五年九月ころ、信者K(その地位は科学技術省次官。)に対し、Eの指導の下にサリン生成用の化学プラントの設計を行うことを指示し、同年一〇月ころ、信者であるC、B、MらをEの下に配属し、医師であり化学的知識のある信者A(その地位は法皇内庁大臣にして師長。)をEの協力者として関与させた。

(国甲一二、B=C公判記録甲四八、甲五一)。

(四) Eは、平成五年六月ころから、本格的にサリンの大量生成のための基礎実験等を繰り返し、同年八月ころ、プラントによるサリン大量生成を前提とした合計五つの工程からなるサリン生成工程を確定し、これに基づき、同年一一月ころ、クシティガルバ棟において、標準サンプルとして、サリン約二〇グラムを生成した。

さらに、Eは、Dからの指示により、同月中に約六〇〇グラム、翌一二月中旬に約三キログラムのサリンを生成した。四月下旬にはDから五〇キログラム生成の指示を受け、今度はAら協力者に生成させようとし、Aにサリン五〇キログラムを生成するのに必要な物質収支メモを渡した。

Aらは、平成六年二月中旬ころまでに、第七サティアンにあったグラスライニング反応釜を使ってサリン約三〇キログラムを生成したが、右サリンはすぐに使用せず、保管することとなった。

(国甲一二、B=A公判記録甲四九、甲五一、甲五二)

2  松本サリン事件

証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 松本市内にサリンを撒く計画

債務者は、長野県松本市に債務者の松本支部設置を計画し、そのための土地を関連会社名義で賃借したが、これに関し、土地を賃貸した所有者から、長野地方裁判所松本支部に、錯誤又は詐欺による土地の返還請求権を被保全権利とする債務者施設の建築工事禁止等の仮処分の申立てがされ、同支部は、平成四年一月一七日、右申立てを認容する決定をした(同支部平成三年(ヨ)第一一四号事件)。さらに、債務者は、右所有者から、同支部に、別件の土地の売買契約についても錯誤又は詐欺を理由に無効であるとして、その返還を求める訴訟を提起され、平成六年六月当時右訴訟が係属中であった。

甲野は、債務者松本支部設置にかかわる右訴訟の結末を危惧し、その進行の妨害を図るとともに、それまでに生成したサリンの効果を実際に試すため、右裁判所にサリンを撒き、右訴訟を担当する裁判官らを殺害する計画を立てた。

そして、同月二〇日過ぎころ、山梨県西八代郡上九一色村富士ヶ嶺所在の債務者施設のうち、第六サティアンと呼ばれる建物の一階にある甲野の部屋において、甲野、D、F及びAらが集まり、右裁判所に裁判所が開いている時間帯に噴霧車を使ってサリンを撒くこと、警察が来た場合に備えて、その腕力を期待された信者であるL、N及びOを同行させることなどを決めた。

そこで、Dの指示により、信者Pがサリン散布のための噴霧車を製作し、Aが防毒マスクの製作及び噴霧車へのサリンの注入作業(約一二リットルのサリンを注入)を担当した。また、A、信者Q(その地位は厚生省〔後の第一厚生省〕大臣にして正悟師。)及び同Rは、サリン散布の前日である同月二六日に松本市に行き、噴霧車と同行するためのワゴン車を借り入れ、同時に、松本市の裁判所と警察署を下見した。

(民B甲一一、甲一一一、甲一一二、B=C公判記録甲五三)

(二) サリン散布の実行、被害の発生とその状況

Dらは、Aが噴霧車へのサリン注入の作業を終了した後の平成六年六月二七日午後五時ころ、噴霧車の運転席にO、助手席にDが乗り、ワゴン車にはL(運転席)、F、N、Q及びAが乗り込み、松本市へ出発した。

松本市へ向かう途中、DとFが中心となって、サリン散布の場所を裁判所から裁判官官舎へ変更することを決めたほか、Dら一行は、サリン中毒の予防薬を服用したり、噴霧車とワゴン車のそれぞれに偽造ナンバーを取り付けたりして、準備を整えながら、松本市へ向かった。

そして、同日、午後一〇時過ぎころ、長野県松本市北深志一丁目三一二番所在の駐車場に到着した。そこで、噴霧車に乗ったDとOは、噴霧器を作動させて噴霧器に充填された液体状のサリンを加熱、気化させたうえ、同噴霧器に備えてあった大型のファンを用いて右気化したサリンを約一五分間にわたって周辺に発散させた。

右散布の結果、別表1のとおり春山一郎(当時二六歳)ほか六名が、同市北深志一丁目一三番五の八所在の開智ハイツ二〇四号室などにおいて、サリンガスを吸入するなどして、同月二八日午前零時一五分から同日午前四時二〇分ころまでの間に、同所ほか六か所において、サリン中毒により死亡し、別表2のとおり夏川とも子(当時四六歳)ほか一四三名が、サリンガスを吸入するなどして、加療期間不詳(現在も加療中の場合を「期間不詳」という。)ないし二日間を要するサリン中毒症の傷害を負った。

(民B甲二ないし五、甲三三、甲三四、甲三五の二、甲三六、国甲四、甲一四、B=C公判記録甲一ないし八、甲五四)

3  地下鉄サリン事件

証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 地下鉄にサリンを撒く計画等

甲野は、平成七年一月一日、山梨の山麓に松本事件直後にサリン残留物検出との新聞記事が掲載されたことから、債務者が松本サリン事件を引き起こしたものであることが発覚することを恐れ、また、予期された債務者への警察の捜索に備えて、債務者によるサリン生成の証拠を隠滅するために、Dに命じて残存サリンを処分させた。

その後、甲野は、同人の指示を受けた債務者の幹部らが目黒公証役場事務長秋村二男を拉致・監禁し、死亡させた事件について、新聞や週刊誌で債務者が右事件に絡んでいることが報じられたため、近く、警察によって、債務者に対する大規模な強制捜査が行われるという強い危機感を抱いた。そこで、警察組織に打撃を与えるとともに、首都中心部を大混乱に陥れるような事件を敢行することにより右強制捜査の実施を事実上不可能にしようと考え、警視庁等の所在する地下鉄霞ヶ関駅を走行する地下鉄列車内でサリンを撒き、多数の乗客を殺害しようと考えた。

そこで、甲野は、平成七年三月ころ、Dに対し、右計画の具体的な立案、実行を命じるとともに、そのころ、Qに対し、Dを介してサリン生成を命じた。

Qは、暫くサリン生成に着手せずにいたところ、同月一九日に甲野から、早急に作ることを命じられた。そこで、Qは、同日の夕方ころ、Eの作成したメモに従って、先のサリン廃棄の際にAが捨てないで保管していたメチルホスホン酸ジフロライド約一・四キログラムからのサリン生成に着手し、やがて、ヘキサンなどの薬品が混じったものではあったが、約五ないし六リットルのサリンを生成した。そして、Qは、Dの指示を受けたAとともにできあがったサリンを給油ポンプを用いて一一個のビニール袋に小分けし、シーラーで密封した。

(A公判記録甲一一九〇一、甲一一九〇二、甲一一九二四、甲一一九二八、甲一一九三〇、甲一一九三二、甲一一九三三、B=A公判記録甲五五)

(二) 共謀の状況

一方で、Dは、甲野の了承を得て、教団幹部の中から前記計画を実行する者を選定することとし、実際に地下鉄でサリンを撒く者として、いずれも信者であるS(その地位は師長)、T(その地位は治療省大臣にして師長)、U(その地位は師。)、V(その地位は師。)及びW(その地位は師長。)を、Dからの具体的な指示の伝達役として信者X(その地位は正悟師。)を選定した。

そして、Dは、Xらに、平成七年三月一八日ころ、警察の強制捜査の矛先をそらすために、同月二〇日の朝に地下鉄内でサリンを撒くことを指示し、Xらはこれを了解した。

D、S、U、V及びXは、同月一八日、Dの自室において、地下鉄路線図等を見ながら、サリンを撒く地下鉄の路線及び駅はどこが適当かを検討した。その際、Dは、Sらに対し、警視庁に近い場所にある地下鉄霞ヶ関駅を走行する帝都高速度交通営団日比谷線(以下「地下鉄日比谷線」という。)、同営団丸の内線(以下「地下鉄丸の内線」という。)及び同営団千代田線(以下「地下鉄千代田線」という。)の三つの路線にサリンを撒くこと、乗客が多いラッシュ時に実行するのが効果的であるとして、同月二〇日の午前八時に各路線で一斉にサリンを撒くことを指示した。

その後、Dは、各実行者を犯行現場まで自動車で送迎する運転者役として、F、Y(その地位は師。)、Z(その地位は師。)、I(その地位は師。)及びJ(その地位は師。)の五名の信者を選定し、実行者と運転者の組み合わせも決めたうえ、Xにそれを伝えた。

(A公判記録甲一一九〇一、甲一一九〇二、甲一一九二四)

(三) 渋谷アジトでの謀議

前記実行者、運転者及びXは、平成七年三月一九日午後九時ころまでに、東京都渋谷区宇田川町二丁目二六番渋谷ホームズ四〇九号室(以下「渋谷アジト」という。)に集合したうえ、Xが、それぞれの担当する路線と実行者運転者の組み合わせ等を伝えた。すなわち、地下鉄日比谷線の中目黒方面行の路線はSとYが、地下鉄日比谷線の北千住方面行の路線はWとJが、地下鉄丸の内線の荻窪方面行の路線はUとZが、地下鉄千代田線の代々木上原方面行の路線はTとFが、地下鉄丸の内線の池袋方面行の路線はVとIがそれぞれ担当すること、サリンを撒く時刻は同月二〇日午前八時とすること、サリンは降車前に撒くこと、実行者の降車駅はSが秋葉原駅、Wが恵比寿駅、Uが御茶ノ水駅、Tが新御茶ノ水駅、Vが四谷駅であることなどが伝えられた。

なお、Dは、各実行者らに対し、同月二〇日午前三時ころ、第七サティアンにおいて、サリン入りのビニール袋を各二袋ずつ(Sだけは三袋)交付した。

(A公判記録甲一一八八二、甲一一九〇二、甲一一九二五)

(四) サリン散布の実行、被害の発生とその状況

(1) 地下鉄日比谷線北千住発中目黒行列車関係

Sは、平成七年三月二〇日午前六時ころ、Y運転の自動車で地下鉄日比谷線上野駅に向かい、途中、同人に新聞、ハサミ、ゴム手袋を購入してもらい、同車内で、サリン入りのビニール袋三袋を重ね新聞紙で一包にするなどした。Sは、同日午前七時ころ、地下鉄日比谷線上野駅出入口付近でY運転の自動車を降り、サリン入りのビニール袋三袋を包んだ新聞紙包みとビニール傘等を携帯して同駅に入った。そして、Sは、中目黒行の列車に乗車し、同日午前八時ころ、秋葉原駅に到着するまでの間に同列車の第三車両の床に、サリン入ビニール袋三袋を入れた新聞包みを置いたうえ、それを携帯したビニール傘の先で多数回突き刺して、同袋内からサリンを漏出させて同車両内にサリンを撒き、同駅で同車両から降りた。

Sが撒いたサリンは、気化して列車内に発散した結果、地下鉄日比谷線秋葉原駅から築地駅に至る間の列車内又は各停車駅構内等において、別表3、番号1ないし7記載のとおり、冬田花子(当時三三歳)ほか六名がサリンガスを吸入するなどして、同日午前八時五分ころから同年四月一六日午後二時一六分ころまでの間、小伝馬町駅構内ほか六か所で、サリン中毒によって死亡したほか、別表4及び4の2記載のとおり、東山三郎(当時五一歳)ほか二四七四名がサリンガスを吸入するなどして、同表加療期間欄記載の各加療日数を要するサリン中毒症の傷害を負った。

(2) 地下鉄千代田線我孫子発代々木上原行列車関係

Tは、平成七年三月二〇日午前六時少し前ころ、F運転の自動車で渋谷アジトを出発し、途中、同人に赤旗新聞を入手してもらい、同車内でサリン入りビニール袋二袋を赤旗の新聞紙で包んだ。Tは、地下鉄千代田線千駄木駅前でF運転の自動車から降りて同駅に入り、同線を使って綾瀬駅で降りて時間潰しをし、その後、北千住駅に行き、同ホームで新御茶ノ水駅に午前八時に到着する列車を待ち、北千住駅を午前七時四六分に発車する右列車の一両目の一番前の入口から乗り込んだ。そして、右列車が新御茶ノ水駅に近づき減速を始めた時、Tはサリン入りビニール袋二袋を包んだ新聞包みを自分の足下の床上に落下させ、携帯していたビニール傘の先で、その新聞包みを数回突き刺し、同袋内からサリンを漏出させて同車両内にサリンを撒き、同駅で同車両から降りた。

Tが撒いたサリンは、気化して列車内に発散した結果、地下鉄千代田線新御茶ノ水駅から霞ヶ関駅に至る間の列車内又は各停車駅構内等において、別表3、番号10及び11記載のとおり、西村四郎(当時五〇歳)ほか一名がサリンガスを吸入するなどして、同日午前九時二三分ころから同月二一日午前四時四六分ころまでの間、東京都千代田区内幸町一丁目三番二号所在の浩邦会日比谷病院ほか一か所で、サリン中毒によって死亡したほか、別表5及び5の2記載のとおり、南田香子(当時二五歳)ほか二三〇名がサリンガスを吸入するなどして、同表加療期間欄記載の各加療日数を要するサリン中毒症の傷害を負った。

(3) その他の路線関係

Wは、地下鉄日比谷線中目黒発東武動物公園行列車の第一車両のドア付近に乗り込み、恵比寿駅に到着するまでの間に、Uは、地下鉄丸の内線池袋発荻窪行列車に乗り込み、同列車が御茶ノ水駅に到着するまでの間に、Vは、地下鉄丸の内線池袋行列車に乗り込み、同列車が四谷駅に到着するまでの間に、それぞれサリン入りビニール袋二袋をビニール傘の先で突き刺し、列車内にサリンを漏出させた。

Wが撒いたサリンは、気化して列車内に発散した結果、地下鉄日比谷線恵比寿駅から霞ヶ関駅に至る列車内又は各停車駅構内等において、別表3、番号8記載のとおり、北川春男(当時九二歳)がサリンガスを吸入するなどして、平成七年三月二〇日午前八時一〇分ころ、神谷町駅構内で、サリン中毒によって死亡したほか、別表6及び6の2記載のとおり、乙村智子(当時五三歳)ほか五三一名がサリンガスを吸入するなどして、同表加療期間欄記載の各加療日数を要するサリン中毒症の傷害を負った。

Uが撒いたサリンは、気化して列車内に発散した結果、地下鉄丸の内線御茶ノ水駅から荻窪駅で折り返し新高円寺駅に至る間の列車内又は各停車駅構内等において、別表3、番号9記載のとおり、丙山雄三(当時五四歳)がサリンガスを吸入するなどして、同月二一日午前六時三五分ころ、東京都新宿区河田町八番地一号所在の東京女子医科大学病院で、サリン中毒によって死亡したほか、別表7及び7の2記載のとおり、丁野晴子(当時三一歳)ほか三五七名がサリンガスを吸入するなどして、同表加療期間欄記載の各加療日数を要するサリン中毒症の傷害を負った。

Vが撒いたサリンは、気化して列車内に発散した結果、地下鉄丸の内線四谷駅から池袋駅で折り返し新宿駅に至る間の列車内又は各停車駅構内等において、別表8及び8の2記載のとおり、戊川五郎(当時三七歳)ほか一九九名がサリンガスを吸入するなどして、同表加療期間欄記載の各加療日数を要するサリン中毒症の傷害を負った。

(民D甲五の一ないし六、甲六の一の二、甲六の二の一、甲六の三、甲六の四の二、甲六の五の二及び三、甲六の六の四、国甲四、甲一三、A公判記録甲一一六七七、甲一一六七八、甲一一六八五、甲一一六八六、甲一一六九七、甲一一六九八、甲一一七〇九、甲一一七一〇、甲一一七三二、甲一一七三三、甲一一七三四、甲一一七五九、甲一一七六〇、甲一一七六一、甲一一八八二、甲一一八八三、甲一一九〇三)

(五) サリン散布後の行動

実行者及び運転者は、地下鉄でサリンを撒いた後、渋谷アジトに戻り、Tがサリン中毒の影響が出たS、V、U及びJに通称パムと呼ばれるサリン解毒剤を注射して治療を施した。X、S、F及びYは、実行者がサリンを撒くときに着用していた服、靴、手袋やビニール袋を突き刺すのに用いた傘等を処分するため、多摩川の河原に行き、そこでこれらの物を焼却した。その後、S、F及びYは、上九一色村に戻り、前記第六サティアンの甲野の部屋に行き、地下鉄でのサリン散布の報告をしようとしたところ、甲野の方から、「ご苦労だったな。」と労いの言葉をかけてきた。そして、Fがニュースで死者がでていることを報告すると、甲野は大きくうなづき、「これは、ポアだからな。分かるな。」と言い、それぞれの名前を一人ずつ呼びながら、甲野の部屋にあったおはぎとジュースを手渡した。また、甲野は、「暝想しなさい。そして、『グルとシヴァ大神とすべての真理勝者方の祝福によってポアされてよかったね。』という詞章を一万回唱えなさい。それで君たちの功徳になるから。」などと言った。

Tも一人で甲野に報告に行き、「今、さっき戻りました。やってきました。」と言うと、甲野は、違和感なく、「そうか。」とうなづきながら「三塩化リンとフッ化ナトリウムを治療棟の地下に隠すから協力してくれ。指示はマンジュシュリー(D)がするから。シヴァ大神とすべての真理勝者方にポアされてよかったね。マントラを一〇〇〇回唱えなさい。」などと言った。

(A公判記録甲一一八八三、甲一一八八四、甲一一九〇三、甲一一九〇四)

4  債務者の責任

宗教法人の代表役員がその職務を行うにつき第三者に損害を与えた場合は、当該宗教法人はその損害を賠償する責任を負うとされている(宗教法人法一一条一項)。したがって、宗教法人につき同条項の責任の可否を考えるにあたっては、代表役員の不法行為の存在とこの不法行為が当該宗教法人の職務を行うことにつき行われたものであることの二要件を検討しなければならない。

(一) 代表役員甲野の不法行為

前記認定事実によれば、Dら債務者の幹部及び信者が松本サリン事件及び地下鉄サリン事件において、サリンを用いて不特定多数の人を殺害し、傷害を負わせたことが明らかである。そして、前記のとおり、債務者の代表役員として債務者における絶対的地位を有する甲野が、松本サリン事件においてサリン散布の計画を実行者に直接指示しており、その指示に基づいて同事件が遂行されたことに照らすと、同事件における殺害及び傷害の行為は、甲野自身の不法行為であるというべきものである。また、地下鉄サリン事件についても、右甲野が地下鉄に撒くサリンの生成をQに直接指示していること、事件後に実行者らが甲野に報告に行った際に、甲野はその労をねぎらい、これは「ポア」(この言葉は、債務者教団特有の言葉であり、明確な意義は不明であるが、悪業すなわち債務者の活動の妨害をしている人たちを殺してこれ以上悪業を重ねさせないという意味で善行を施し、このような地獄に落ちるべき者を高い世界に送り出し、生まれ変らせる旨の意味を有する〔国甲八、A公判記録甲一一八八四〕。)であるなどとして殺害を正当化する言動をした事実等に照らせば、甲野が、債務者において甲野に次ぐ正大師の地位にあるDを介して、実行者らに指示を与えたものと優に認められ、その指示に基づいて同事件が敢行されたことに徴すると、地下鉄サリン事件における殺害及び傷害の行為もまた、単に債務者の幹部及び信者らの不法行為であるのにとどまらず、甲野自身の不法行為でもあるというべきである。

(二) 職務執行性

宗教法人一一条一項にいう「職務を行うにつき」とは、当該行為が、当該宗教法人の代表役員が当該法人の業務執行としてその資格をもって行うべき職務に属する行為としてされた場合のほか、右職務に属する行為を契機とし、これと密接な関連を有するとみられる行為としてされた場合をも意味するものと解される。そして、右にいう「職務」の範囲については、当該宗教法人の目的に包含される行為に加え、右目的遂行の活動上に必要な行為でありうると客観的、抽象的に観察して判断される行為がこれに含まれるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、債務者の目的には、その規則に掲記されているとおり「救済目的」が挙げられており、ここにいわゆる救済とは、地獄、動物、餓鬼の三悪趣の世界に転生しなければならない魂を引き上げて人間界以上の世界に転生させることを意味し、この救済すなわち転生の目的の実行手段については、教祖であり、債務者の代表役員として債務者における絶対的地位を有する甲野の解釈によって、「人を殺してはならない」などの戒律を破る行為であっても、真理勝者としてのグルである甲野が見極めて命令・指示したことであれば、結果として救済に役立つのであり、例えば、債務者の活動を妨害する者を殺害したような場合も、ポアとして救済の意味をもつことになるとされ、その旨の解釈は、債務者の信者たち、少なくとも松本サリン事件及び地下鉄サリン事件の実行者らにおいて受け入れられていた(民D甲二三の一、国甲八、A公判記録甲一一九〇七)こと、また、甲野は、債務者による将来のサリン大量散布を含む自己の教義・思想(ハルマゲドンなどと称する世界的な混乱状態)の実現の準備として、債務者の施設内で大量のサリン生成計画を実践していたものであり、両サリン事件は、右教義・思想を実現する前哨戦としての意味づけをも有するものであったこと、しかも、両サリン事件は、かかる背景の延長上で、かつ、差し迫っては、いずれも債務者自身の存続を危うくしかねない事態を打開するべく行われたもの、すなわち、松本サリン事件については債務者が当事者となっている民事訴訟の妨害のために、地下鉄サリン事件については警察の債務者に対する強制捜査の矛先をそらすために、甲野が指示・命令して敢行されたものであること、このような甲野による指示・命令と債務者の教義等による裏付けの故に、両サリン事件ともに、債務者の幹部クラスの者が、自らもサリン中毒によって死傷する危険を省みず実行者となったこと等の諸事情を併せ考えると、両サリン事件という甲野の不法行為は、まさしく、債務者の「救済」なる宗教目的及び宗教法人としての「自己存続」という業務目的遂行の意義を有するものであったといわざるをえないから、債務者の右業務の執行行為を契機とし、これと密接な関連性を有すると評価しうる行為であるということを妨げないものである。

(三) そうだとすると、両サリン事件により、被害者らが被った損害は、宗教法人法一一条一項にいう代表役員がその職務を行うにつき加えた損害であるというべきであり、債務者はこれを賠償する責任がある。

5  債権者らの損害

(一)(1) 両サリン事件の債権者(被害者)らが、甲野の右各不法行為によって損害を被ったことは後記第二、一、1に説示するとおりである。

(2) また、申立債権者国が、被害者に対する保険給付等によって被害者らの損害賠償請求債権を代位取得したことは、後記第二、一、2に説示するとおりである。

(二) したがって、後記三記載の債権者らを除くその余の申立債権者らは、債務者に対し、少なくとも後記第二、一記載の各損害賠償債権を有していることが認められる。

三  その他の申立債権について

1  夏井弁護士事件

(一) 証拠(民A甲一ないし八、一〇ないし一三、国甲四、B=C公判調書五五)によれば、次の事実が一応認められる。

甲野、D、a、H、F、A及びOは、債務者に対して未成年の出家信者と親権者とを面会させるよう求める交渉、「お布施」の返還請求訴訟の準備、「オウム真理教被害者の会」設立への助言など、かねてから債務者と対立する活動をしていた弁護士夏井良男の活動を永久に封ずるために、同弁護士及びその家族を殺害することを共謀した。そして、同人らは、平成元年一一月四日未明ころ、横浜市磯子区洋光台三丁目三五番七号サンコーポ萩原C二〇一号室右夏井良男方において、夏井良男(当時三三歳、相続人は同人の父母である申立債権者夏井一男、同夏井春子)に対し、頚部に腕を巻き付けて締めつけるなどし、そのころ、同所において、同人を窒息させて死亡させ、右夏井良男の妻夏井幸子(当時二九歳、相続人は同人の父母である申立債権者秋山幸男、同秋山雪子)に対し、その着衣の襟等を強く引いて頚部を締めつけるなどし、そのころ、同所において、同人を窒息させて死亡させ、右夏井良男の長男夏井二郎(当時一歳、相続人は同人の祖父母である右夏井一男、夏井春子、秋山幸男、秋山雪子)に対し、その鼻口部を手で閉塞するなどし、そのころ、同所において同人を窒息させて死亡させた。

(二) 右共謀に加担した債務者の代表役員甲野の行為は同人の不法行為であり、債務者の職務に密接に関連する行為と一応認められるから、右夏井一男ほか三名の申立債権者が債務者に対して宗教法人法一一条一項による損害賠償請求権を有する旨の疎明があったというべきである。

2  秋村二男監禁致死事件

(一) 証拠(民C甲四、国甲五)によれば、次の事実が一応認められる。

甲野、X及びAらは、債務者から「出家」と「お布施」を迫られ債務者を離脱しようと身を隠していた女性信者を捜し出して同人に債務者に対する「出家」と「お布施」を実行させるため、まず、その所在を聞き出すために、同人の実兄である秋村二男を拉致し監禁することを共謀した。

そして、右拉致の実行を担当することになった右Xらは、平成七年二月二八日午後四時三〇分ころ、東京都品川区内の路上において秋村二男を普通乗用自動車の後部座席に押し込んで直ちに同車を発進させ、同車内において同人に全身麻酔薬を投与して意識喪失状態に陥らせ、同人にさらに全身麻酔薬を投与して意識喪失状態を継続させながら、同日午後一〇時ころ、山梨県西八代郡上九一色村所在の債務者施設で「第二サティアン」と呼ばれる建物に連れ込み、そのころから、TもAから事情を聞かされて前記甲野らの意図を了解し、Aと共謀のうえ、引き続いて同年三月一日午前一一時ころまでの間、同施設内において秋村二男に全身麻酔薬を投与して意識喪失状態を継続させるなどして、同人を同施設から脱出不能な状態におき、もって不法に逮捕監禁し、そのころ、同施設内において、右大量投与した全身麻酔薬の副作用である呼吸抑制、循環抑制等による心不全により同人を死亡させた。

(二) 共謀に加担した債務者の代表役員甲野の行為は、同人の不法行為であり、債務者の職務に密接に関連する行為と一応認められるから、右秋村二男の相続人である妻の申立債権者秋村ヨシ、子の同秋村一夫、同秋村二郎及び同秋村良子が債務者に対して宗教法人法一一条一項による損害賠償請求権を有する旨の疎明があったというべきである。

第二  破産原因について

一  負債額について

前示のとおり債務者は、その代表者であった甲野の前記各不法行為の被害者らに対し、右不法行為によって与えた損害を賠償する債務を負担しているところ、その額は次のとおりであると判断する。

1  松本サリン事件及び地下鉄サリン事件による損害賠償債務額

(一) 総論

本決定は、前記甲野の各不法行為によってその被害者らに生じた損害の額を最終的に確定するものではなく、ただ破産宣告の要件事実の存否の判断のために必要な限度でこれを認定するものにすぎないから、次に記載するような控え目な計算方法によってその額を算定することとする。

(1) 逸失利益について

ア 年収額は、実額が主張、立証されていないものについては、平成六年の賃金センサスによる。すなわち、賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、性別の該当年齢の平均賃金とした。学歴、勤務先が判明している者についてはそれに応じた平均賃金として、より実額に近似させた。

ただし、平成七年(フ)第三六九四号事件の申立書記載の実額の主張が賃金センサスの年収額より低い場合は、右申立書記載の実額によった。

なお、賃金センサスで計算する際、三〇歳未満の若年者についても、三〇歳以上と区別することなく、年齢別の平均を用いた。

イ 死亡者の逸失利益は、六七歳まで稼働可能として算定し、ライプニッツ方式により中間利息を控除した。

ウ 生活費控除は、婚姻・扶養家族の有無につき、可及的に実情によるが、婚姻・扶養家族の有無が判明しない者についてはその年齢性別により次のとおりとする。なお、子である扶養家族については、成年子を扶養家族として扱わないこととする。

男性 三〇歳未満 五〇パーセント(独身と推定)

三〇歳以上五五歳未満 三〇パーセント(扶養家族二人以上と推定)

五五歳以上 四〇パーセント(扶養家族一人と推定)

女性 三〇パーセント

なお、死亡者のほか、加療期間不詳者でいまだ入院中の者についても、生活費控除を行う。

(2) 慰謝料について

前記認定の両サリン事件における甲野らの行動の動機と計画性、通勤途上の何ら落ち度のない不特定多数の人間を狙ってサリンを撒くといったその態様自体の残忍といえるまでの悪質さ、また、多数の死傷者を出すに至った結果の重大さ等々の諸事情を考慮すれば、少なくとも次の算定額を下ることはないものと判断する。

ア 死亡慰謝料は、一家の支柱が三九〇〇万円、母親、配偶者が三三〇〇万円、その他が三〇〇〇万円とする。その区別が明らかでない者については、一律三〇〇〇万円とする。

イ 後遺症慰謝料は、第一級が三九〇〇万円、第二級が三三〇〇万円、第三級が二七七五万円とした。

ウ 入院慰謝料は、一日当たり二万四〇〇〇円、通院慰謝料は一日当たり一万二五〇〇円とし、入通院日数の長期化による慰謝料額の逓減及び入院と通院が併存することによる慰謝料額の逓減を考慮して、一日当たりの入通院慰謝料額に入通院日数を乗じた金額の合計額の六割をもって慰謝料額とする。

(3) 積極損害について

ア 死亡者の葬儀費用は、一律一二〇万円とする。

イ 後遺傷害のある重症者の付添看護費を一日六〇〇〇円とし、平均余命までライプニッツ方式を用いて中間利息を控除して算定した。

ウ 申立債権者については、損害額に弁護士費用を加算した。加算する弁護士費用は次のとおりとした。

損害額が一〇〇〇万円未満 七パーセント

損害額が一〇〇〇万円以上五〇〇〇万円未満 六パーセント

損害額が五〇〇〇万円以上 五パーセント

(二) 死亡者及び重傷者の個々の損害額

死亡者、加療期間不詳者及び長期加療者の損害賠償額は、別表9及び10のとおりであるが、以下、必要な範囲内において個別的な認定及び説明を加える。

(1) 松本サリン事件

ア 死亡者の損害

①冬山三佳(死亡当時二九歳、医学部六年生、独身、民B甲四四)

冬山三佳は、大学卒業後の三〇歳から六七歳まで、医師として稼働しえたと推認されるところ、医師という職業上、男女間の格差は認められないから、平成六年賃金センサス第三巻第三表産業計企業規模計の医師(男子)の三〇歳から三四歳の平均賃金である年九〇五万六八〇〇円を基礎とし、生活費控除を独身男性と同じ五〇パーセントとして、中間利息をライプニッツ方式(ライプニッツ係数16.8678-0.9523=15.9155)で控除すると、その逸失利益は七二〇七万一七五〇円となる。

その他は別表9のとおりである。

損害額合計 一億〇五一八万〇三三七円

申立債権者冬山一雄及び同冬山花枝は冬山三佳の両親であり、相続人として(民B甲三六)、それぞれ右合計額の二分の一にあたる五二五九万〇一六八円(一方は五二五九万〇一六九円)の債権を有する。

②山井友一(死亡当時二六歳、大卒、独身、民B甲四二)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子大卒二五歳から二九歳の平均賃金四五〇万九〇〇〇円を基準とした。

その他は別表9のとおりである。

損害額合計 六七六〇万九四九八円

申立債権者山井道男及び同山井君子は山井友一の両親であり、相続人として(民B甲三四)、それぞれ右合計額の二分の一にあたる三三八〇万四七四九円の債権を有する。

③川村貞夫(死亡当時一九歳、大学二年生、独身、民B甲四一)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子大卒二〇歳から二四歳の平均賃金三二四万八〇〇〇円を基準とし、就労年数を大学卒業後の二二歳から六七歳までとし、中間利息をライプニッツ方式(ライプニッツ係数18.0771-2.7232=15.3539)で控除する。

その他は別表9のとおりである。

損害額合計 五六六三万一四六九円

申立債権者川村和由及び川村智子は川村貞夫の両親であり、相続人として(民B甲三三)、それぞれ右合計額の二分の一にあたる二八三一万五七三四円(一方は二八三一万五七三五円)の債権を有する。

④草野二郎(死亡当時五三歳、独身、民B甲四六の一、甲四七)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計五〇歳から五四歳の平均賃金七二一万四六〇〇円を基準とした。

その他は別表9のとおりである。

損害額合計 五八八〇万七二一九円

⑤木田良子(死亡当時三五歳、独身、民B甲四六の一、甲四七)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計女子学歴計三五歳から三九歳の平均賃金三六一万四〇〇〇円を基準とした。

その他は別表9のとおりである。

損害額合計 六七四七万七四一七円

⑥空川宏(死亡当時四五歳、明治生命保険相互会社勤務、独身、民B甲四六の一、甲四七)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計一〇〇〇人以上の企業四五歳から四九歳の平均賃金八七一万四三〇〇円を基準とした。

その他は別表9のとおりである。

損害額合計 七八〇二万三一六五円

⑦林哲(死亡当時二三歳、大卒、独身、民B甲四三)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子大卒二〇歳から二四歳の平均賃金三二四万八〇〇〇円を基準とした。

その他は別表9のとおりである。

損害額合計 五八三六万三四三五円

申立債権者林進及び同林はるは林哲の両親であり、相続人として(民B甲三五の一及び二)、それぞれ右合計額の二分の一にあたる二九一八万一七一七円(一方は二九一八万一七一八円)の債権を有する。

イ 重傷者の損害

①夏川とも子(受傷当時四六歳、意識障害一級、主婦、国甲一四)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計女子学歴計四五歳から四九歳の平均賃金三五一万六四〇〇円を基準とし、入院中であることを考慮して生活費控除を行った。

後遺症慰謝料(一級)は、三九〇〇万円とした。

一日当たりの付添看護費を六〇〇〇円として、平均余命三七年について、ライプニッツ方式で中間利息を控除して、その全看護費を計算した。

6,000×365×16.7112=36,597,528

その他は別表9のとおりである。

損害額合計 一億〇二六〇万〇四〇九円

②夏川義男(受傷当時四四歳、国甲一四)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計四〇歳から四四歳の平均賃金六四九万〇三〇〇円を基準として、一年間の逸失利益を認めた。

入通院慰謝料は、入院三四日間、通院三七二日間として算定した。

{(24,000×34)+(12,500×372)}×0.6=3,279,600

損害額合計 九七六万九九〇〇円

③森田宏(受傷当時一九歳、学生、国甲一四)

傷害による休業損害等の逸失利益については、現に就業し利益をあげていた場合にこれを認めるべきものであるところ、森田宏は学生であり、退院していることから、逸失利益はなしとした。

入通院慰謝料は、入院一七日間、通院三八九日間として算定した。

{(24,000×17)+(12,500×389)}×0.6=3,162,300

損害額合計 三一六万二三〇〇円

④森良男(受傷当時四六歳、国甲一四)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計四五歳から四九歳の平均賃金七〇三万五四〇〇円を基準として、加療期間二六五日間の逸失利益を認めた。

入通院慰謝料は、入院四五日間、通院二二〇日間として算定した。

{(24,000×45)+(12,500×220)}×0.6=2,298,000

損害額合計 七四〇万五八九三円

⑤南田智子(受傷当時四四歳、国甲一四)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計女子学歴計四〇歳から四四歳の平均賃金三五三万八三〇〇円を基準として、加療期間二〇〇日間の逸失利益を認めた。

入通院慰謝料は、入院四日間、通院一九六日間として算定した。

{(24,000×4)+(12,500×196)}×0.6=1,527,600

損害額合計 三四六万六三九四円

(2) 地下鉄サリン事件

ア 死亡者の損害

①冬田花子(死亡当時三三歳、会社員、高卒、独身、民D甲七の六、甲二〇の三、国甲一三)

証拠(民D甲二〇の三添付源泉徴収票)によると、年収は三一三万〇一五五円であるのでこれを基準とした。

その他は別表10記載のとおりである。

損害額合計 五七一〇万八〇五一円

申立債権者冬田文雄及び同冬田サチコは冬田花子の両親であり、相続人として(民D甲六の三)、それぞれ右合計額の二分の一にあたる二八五五万四〇二五円(一方は二八五五万四〇二六円)の債権を有する。

②山上友一(死亡当時二九歳、会社員、一家の支柱、国甲一三)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計二五歳から二九歳の平均賃金四二二万五八〇〇円を基準とした。扶養家族として妻及び本人死亡後に出生した子一人がいるため、三〇パーセントの生活費控除を行った。

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 八五一四万〇五五一円

③海野君那(死亡当時五〇歳、会社員、大卒、独身、国甲一三)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計女子学歴計五〇歳から五四歳の平均賃金三四四万〇八〇〇円を基準とした。大卒であるが、より控え目に、申立書記載のとおり、学歴計で計算した。

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 四六〇五万〇二七五円

④瀬上二郎(死亡当時四二歳、会社員、一家の支柱、民D甲六の四の二、甲七の三、甲二〇の四、国甲一三)

証拠(民D甲二〇の四添付源泉徴収票)によると、年収は八二三万八〇二〇円であるので、これを基準として逸失利益を算出した。扶養家族として妻である申立債権者瀬上洋子及び未成年子である同瀬上彩がいるため、三〇パーセントの生活費控除を行った。

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 一億二一五〇万二七七九円

瀬上二郎と右の続柄にある申立債権者瀬上洋子及び同瀬上彩は、それぞれ相続人として、右合計額の二分の一にあたる六〇七五万一三八九円(一方は六〇七五万一三九〇円)の債権を有する。

⑤森山良男(死亡当時六四歳、会社員、国甲一三)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計六〇歳から六四歳の平均賃金四五二万〇五〇〇円を基準とした。扶養家族については、妻は既に死亡し、長男の家族と同居している関係で、独身者と同様に五〇パーセントの生活費控除を行った。

これらによると逸失利益は六一五万五一一二円と算定される。

ところが、審問の結果によれば、同人の遺族に支給された労働者災害補償保険法による保険給付は、一七八三万一五二〇円であることが認められる。

そもそも、同法によって填補される損害には精神的損害(慰謝料)は含まれないのであり、これらの給付額を財産的損害のうちの精神的損害(慰謝料)との関係で控除することは許されないところ、右一七八三万一五二〇円がいかなる損害費目、金額に填補されたのか証拠上明らかでないから、右給付額全額を控除するのではなく、右保険給付と二重填補の関係に立つ逸失利益及び葬祭費用として認定した七三五万五一一二円に対応する給付額の限度でのみ控除することとする。

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 三〇〇〇万円

⑥田上辰二(死亡当時五三歳、会社員、高卒、一家の支柱、民D甲七の四、甲二〇の五、国甲一三)

証拠によれば、実収入額が七一三万二六五六円であるので、これを基準として逸失利益を計算した。扶養家族としては、妻である申立債権者田上法子のみを認め、四〇パーセントの生活費控除を行った。

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 八一六三万三九四五円

申立債権者田上法子は右のとおり田上辰二の妻であり、同田上たまえは田上辰二の母である(民D甲六の五の一ないし三)から、相続人として田上法子は右合計額の三分の二にあたる五四四二万二六三〇円、田上たまえは右合計額の三分の一にあたる二七二一万一三一五円の債権を有する。

⑦川村智(死亡当時二一歳、会社員、独身、民D甲七の二、甲二〇の二、国甲一三)

証拠(民D甲二〇の二添付の給与証明書)によって、年収は二七二万円とした。

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 六八五〇万五六九六円

申立債権者川村史之及び同川村みちは川村智の両親であり、相続人として(民D甲六の一)、それぞれ右合計額の二分の一にあたる三四二五万二八四八円の債権を有する。

⑧渡部夏吉(死亡当時九二歳、甲一三)

靴修理を営みながら、甥と同居していた者であるが、その年齢に照らして平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計による逸失利益の算出はできず、かつ、実収入額を認めるに足りる資料もないので、ここでは逸失利益を認めない。その他は別表10のとおりである。

損害額合計 三〇〇五万円

⑨丙山雄三(死亡当時五四歳、会社員、一家の支柱、民D甲六の六の四、甲七の五、甲二〇の六、国甲一三)

証拠(民D甲二〇の六添付の所得・税額証明書)によって、年収は七五五万八六二〇円とした。扶養家族については、妻である申立債権者丙山幸江のみを認め、成年子である同丙山紀子は扶養家族と認めないこととし、四〇パーセントの生活費控除を行った。

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 八一〇二万五八八九円

右のとおり、申立債権者丙山幸江は丙山雄三の妻、丙山紀子は丙山雄三の子であるから、相続人としてそれぞれ右合計額の二分の一にあたる四〇五一万二九四四円(一方は四〇五一万二九四五円)の債権を有する。

⑩西村四郎(死亡当時五〇歳、営団職員、一家の支柱、民D甲六の一の二、甲七の一、甲二〇の一、国甲一三)

証拠(民D甲二〇の一添付源泉徴収票)によって、年収は一〇〇〇万〇六一九円とした。扶養家族については、妻である申立債権者西村ヨシエと未成年子である西村五郎のみを認め、成年子である同西村雪子及び同西村六郎は扶養家族と認めないこととし、三〇パーセントの生活費控除を行った。その他は別表10のとおりである。

損害額合計 一億一七七〇万七五九四円

右のとおり、申立債権者西村ヨシエは西村四郎の妻であり、同西村雪子、同西村六郎及び同西村五郎は西村四郎の子であるから、相続人として、西村ヨシエは右合計額の二分の一にあたる五八八五万三七九七円、西村雪子、西村六郎及び西村五郎はそれぞれ右合計額の六の一にあたる一九六一万七九三二円(一人は一九六一万七九三三円)の債権を有する。

⑪春沼良夫(死亡当時五一歳、営団職員、国甲一三)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計五〇歳から五四歳の平均賃金七二一万四六〇〇円を基準とした。扶養家族としては、妻のみを認め、成年子である長男及び妻の母についてはこれを扶養家族と認めないこととし、四〇パーセントの生活費控除を行った。その他は別表10のとおりである。

損害額合計 八四七四万六三六八円

イ 重傷者の損害

①東山三郎(受傷当時五一歳、後遺症一級、国甲一三)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計五〇歳から五四歳の平均賃金七二一万四六〇〇円を基準とした。

一日当たりの付添看護費を六〇〇〇円として、平均余命二七年について、ライプニッツ方式で中間利息を控除して、その全看護費を計算した。

6,000×365×14.6430=32,068,170

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 一億二五八〇万〇九三九円

②河田善男(受傷当時三五歳、後遺症三級、会社員、国甲一三)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計男子学歴計三五歳から三九歳の平均賃金五八七万三〇〇〇円を基準とした。通院中であることから生活費控除をせず、後遺症の等級を考慮して一〇年間についての逸失利益を算定した。

入通院慰謝料は、入院八九日間、通院四〇日間で算定した。

{(24,000×89)+(12,500×40)}×0.6=1,581,600

したがって、慰謝料額は、後遺症慰謝料に入通院慰謝料を加えて次のようになる。

27,750,000+1,581,600=29,331,600

付添看護費は一日当たり六〇〇〇円で入院八九日間分で、五三万四〇〇〇円とした。

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 七八九七万五九〇一円

③丁野晴子(受傷当時三一歳、後遺症一級、国甲一三)

平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計女子学歴計三〇歳から三四歳の平均賃金三六五万一二〇〇円を基準とした。

一日当たりの付添看護費を六〇〇〇円として、平均余命五二年について、ライプニッツ方式で中間利息を控除して、その全看護費を計算した。

6,000×365×18.4180=40,335,420

その他は別表10のとおりである。

損害額合計 一億二一六二万六三九三円

(三) その余の負傷者の損害(前記(二)であげた加療期間不詳者及び長期加療者を除く。)

ここでは、一律に控え目な見積もりをするため、治療費、入院付添費、通院交通費等の損害をはずし、入通院慰謝料に限って算定することとする。そして、前記のとおり、入院慰謝料については一日当たり二万四〇〇〇円、通院慰謝料については一日当たり一万二五〇〇円で計算し、さらに、入通院日数の長期化による慰謝料額の逓減、入院及び通院の合算における慰謝料額の逓減を考慮して、前記入院及び通院の各一日当たりの慰謝料額にそれぞれ日数を乗じて算出した額の合計額に対し、〇・六を乗ずるのを相当として算定した。

(1) 松本サリン事件

前記認定事実のとおり、別表2記載の負傷者一三九名(ただし、番号1ないし5の五名を除いた人数。)があり、証拠(国甲一四)によれば、右負傷者の入院日数は延べ三一八日、通院日数は延べ二二七〇日であることが認められる。

したがって、入通院慰謝料合計は次のとおり算出される。

{(24,000×318)+(12,500×2,270)}×0.6=21,604,200

入通院慰謝料合計 二一六〇万四二〇〇円

(2) 地下鉄サリン事件

前記認定事実のとおり、別表4、4の2、5、5の2、6、6の2、7、7の2、8、8の2記載の負傷者三七九三名(ただし、別表4の東山三郎、河田善男、同7の丁野晴子を除いた人数。)があり、証拠(国甲一三)によれば、右負傷者の入院日数は延べ三八〇一日、通院日数は延べ四万三三一八日であることが認められる。

したがって、入通院慰謝料合計は次のとおり算出される。

{(24,000×3,801)+(12,500×43,318)}×0.6=379,619,400

入通院慰謝料合計 三億七九六一万九四〇〇円

なお、右入通院慰謝料には、申立債権者ハ、同ニ、同ホ、同ヘ、同ト、同チ、同リ、同ヌ、同オ、同ワ、同カ、同カ、同ヨ及び同タの入通院慰謝料も含まれる。

2  申立債権者国の債権

申立債権者国は、債務者に対し、次に説示するとおりの債権を有しており、したがって、債務者は同額の債務を負担していることになる。

(一) 前記認定事実及び証拠(国甲一の一ないし三、甲一の七)によれば、次の事実が認められる。

申立債権者国は、平成七年一二月一二日までに、労働者災害補償保険法、犯罪被害者等給付金支給法、健康保険法、厚生年金保険法及び国民年金法の各規定に基づき、前記認定にかかる松本サリン事件及び地下鉄サリン事件の被害者に対し、次のとおりの金員を支給し、その結果、申立債権者国が、労働者災害補償保険法一二条の四第一項、犯罪被害者等給付金支給法八条二項、健康保険法六七条一項、厚生年金保険法四〇条一項及び国民年金法二二条一項の諸規定により、右金額の限度(ただし、労働者災害補償保険法に基づく保険給付については、一〇四七万六四〇八円を減じた額、健康保険法に基づく療養給付、厚生年金保険法及び国民年金法に基づく保険給付等についてはいずれも零円。)において債務者に対する各被害者の損害賠償請求権を代位取得した。

(1) 労働者災害補償保険法に基づく保険給付としてされた労働者災害補償

申立債権者国は、前記認定の地下鉄サリン事件の死亡者及び負傷者に対し、業務災害に関する保険給付(同法七条一項一号)又は通勤災害に関する保険給付(同項二号)の合計一億九四四四万六四一九円を支給した。

なお、右給付の具体的な支給名目は、証拠上明らかではないが、業務災害に関する保険給付の内容(同法一二条の八第一項)としては、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金があり、通勤災害に関する保険給付の内容(同法二一条)としては、療養給付、休業給付、障害給付、遺族給付、葬祭給付、傷病年金がありうるところ、同法一二条の四第一項の関係において、代位の関係が生じるのは、療養補償給付及び療養給付については治療費、休業補償給付及び休業給付については休業損害としての逸失利益、障害補償給付及び障害給付については労働能力低下による逸失利益、遺族補償給付及び遺族給付については死亡による逸失利益、葬祭料及び葬祭給付については葬祭費、傷病補償年金及び傷病年金については休業損害としての逸失利益と解される。そして、前記1(二)認定の被害者の損害額からは、各被害者の受けた労働者災害補償の給付額を既に控除済みであるし、また、そもそも労働者災害補償の各給付は、前記1(三)認定の損害額(入通院慰謝料)を填補すべき性質のものではないから、同一の損害賠償債権額について二重に計上するものではない。ただし、右各給付には死亡慰謝料を填補すべき性質を有するものがないところ、前記森山良男に対して支給された労働者災害補償一七八三万一五二〇円については、前記認定のとおり、同人の労働者災害補償の給付により填補されるべき損害である逸失利益を六一五万五一一二円、葬祭費用を一二〇万円と認定した関係上、一体いかなる損害費目に対して支給されたか判然としない。そこで、右認定にかかる逸失利益六一五万五一一二円、葬祭費用一二〇万円のみを同法一二条の四第一項の規定により代位取得された債権に含め、現実の支給額と右金額との差額である一〇四七万六四〇八円は右債権から控除することとする。

そうすると、申立債権者国が代位取得し得たものは、一億八三九七万〇〇一一円と認められる。

(2) 犯罪被害者等給付金支給法に基づく犯罪被害者等給付金の支給として行われた犯罪被害者補償

申立債権者国は、前記認定の松本サリン事件の死亡被害者七名及び地下鉄サリン事件の死亡被害者渡部夏吉に対する遺族給付金(同法四条一項一号、二項)、松本サリン事件で重障害を被った負傷者夏川とも子及び地下鉄サリン事件で重障害を被った負傷者一名に対する障害給付金(同条一項二号、三項)の合計四七五七万六〇〇〇円を支給し、右金額の限度において債務者に対する各被害者の損害賠償請求権を代位取得した。

なお、前記1(二)認定の被害者の損害額からは、各被害者の受けた犯罪被害者等給付金の支給額を既に控除済みであるし、また、そもそも犯罪被害者等給付金の支給は、前記1(三)認定の損害額(入通院慰謝料)を填補すべき性質のものではないから、同一の損害賠償債権額について二重に計上するものではない。

(3) 健康保険法に基づく政府管掌健康保険上の保険給付として行われた給付

申立債権者国は、前記認定の松本サリン事件及び地下鉄サリン事件における被害者に対し、保険給付合計二八一万五四八六円の支給をしたことが認められる。そして、右給付が療養の給付(同法四三条)とすれば、本来、右給付額の限度において、債務者に対する各被害者の損害賠償請求権を代位取得しうることになるが、証拠上、右金額のうちの一部が、前記1(二)(1)イ、(2)イの各被害者の看護費(同条一項五号)に填補されたか否か、填補されたとしてその金額がいくらであるかを判断するに足りる資料はない。そうすると、右被害者から同人らの損害賠償請求権を代位取得しうるのか否か、ひいては前記1(三)認定の関係で代位取得が問題のない診療費等の療養費についての損害賠償債権を、いかなる金額において代位取得するのかも判然としていないことになる。

したがって、申立債権者国が、代位取得し得た損害賠償債権を確定することができないから、ここでは、健康保険法に基づく保険給付に関する損害賠償債権を認めないこととする。

(4) 厚生年金保険法及び国民年金法に基づく保険給付及び給付として行われた厚生年金・国民年金

申立債権者国は、前記認定の松本サリン事件及び地下鉄サリン事件によって、負傷又は死亡した厚生年金保険及び国民年金の被保険者又はその遺族に対し、厚生年金保険法及び国民年金法に基づく保険給付合計四二二万一二五一円の支給を行って、右金額の限度において債務者に対する各被害者の損害賠償請求債権を代位取得した旨主張する。

しかしながら、右支給の事実は認められるが、右給付の具体的な支給名目及び支給名目ごとの支給額は、証拠上明らかではない。そして、右各給付の内容としては、厚生年金保険法上の障害厚生年金(同法三二条二号、四七条)、障害手当金(同法三二条二号、五五条)、遺族厚生年金(同法三二条三号、五八条)、国民年金法上の障害基礎年金(同法一五条二号、三〇条)、遺族基礎年金(同法一五条三号、三七条)がありうるところ、厚生年金保険法四〇条一項及び国民年金法二二条一項の関係において、代位の関係が生じるのは、障害厚生年金、障害手当金、障害基礎年金については負傷者の逸失利益、遺族厚生年金、遺族基礎年金については死亡者の逸失利益と解される。しかるに、申立債権者国は、松本サリン事件及び地下鉄サリン事件によって負傷若しくは死亡した国民年金及び厚生年金保険の被保険者又はその遺族に対し、国民年金法及び厚生年金保険法に基づく給付をした旨記載のある証拠(国甲一の三)を提出しているのみであって、遺族厚生年金又は遺族基礎年金の支給がされた可能性を否定できない。そうすると、申立債権者国が、前記1(二)認定の死亡した被害者の損害額から一体いかなる金額において、被害者の死亡による逸失利益についての損害賠償債権を代位取得したのか明らかでなく、ひいては、前記1(三)認定の関係で代位取得が問題のない負傷者の逸失利益についての損害賠償債権を、いかなる金額において代位取得するのかも判然としないことになる。

したがって、申立債権者国が、代位取得しえた損害賠償債権を確定することができないから、ここでも、厚生年金保険法及び国民年金法に基づく保険給付及び給付に関する損害賠償債権を認めないこととする。

(二) 政府が平成七年八月一日までに、地下鉄サリン事件の被害者に対し補償金を給付したことにより、右金額を限度として債務者に対して取得した損害賠償請求権

なお、国家公務員災害補償法及び防衛庁の職員の給付等に関する法律に基づく療養補償費及び休業補償費の中には、前記1(三)認定の損害(入通院慰謝料)は含まれないから、同一の損害賠償債権額につき二重に計上するものではない。

(1) 国家公務員災害補償法に基づく療養補償及び休業補償としての国家公務員災害補償費(同法六条一項により、被害者の債務者に対する損害賠償債権を代位取得した。)

九九万七三六〇円(国甲一の四)

(2) 防衛庁の職員の給付等に関する法律に基づく療養補償としての防衛庁職員災害補償費(同法二七条一項により準用される国家公務員災害補償法六条一項によって、被害者の債務者に対する損害賠償債権を代位取得した。)

二七八万二五一九円(国甲一の五)

3  その他の債務

(一) 地方公務員災害補償基金が平成七年一一月三〇日までに、両サリン事件における被害者に補償金を給付したことにより、同基金が地方公務員災害補償法五九条一項により右金額を限度として債務者に対して取得した損害賠償請求権

右給付の具体的な支給名目は、証拠上明らかでないが、同法二五条一項によれば、基金の補償の対象となるのは、療養補償給付、休業補償給付、傷病補償給付、障害補償給付(障害補償年金、障害補償一時金)、遺族補償給付(遺族補償年金、遺族補償一時金)、葬祭補償給付であるところ、前記1及び2において認定した事実及び審問の全趣旨によれば、松本サリン事件及び地下鉄サリン事件において死亡した者及び加療期間不詳の重傷者の中には、地方公務員災害補償法における補償の対象者は存在しないことが認められるし、また、右各給付は前記1(三)認定の損害額(入通院慰謝料)を填補すべき性質のものではないから、同一の損害賠償債権額について二重に計上するものではない。

一九八〇万四三八〇円(国甲一の六)

(二) 帝都高速度交通営団が地下鉄サリン事件によって被った損害

申立債権者国は、帝都高速度交通営団(以下「営団」という。)が前記認定の地下鉄サリン事件によって被った損害として、少なくとも物件損害、経費損害、営業損害の合計一億五二〇〇万円をあげているところ、前記認定の地下鉄サリン事件におけるサリン散布行為と相当因果関係のある損害として債務者が負うべき損害額は、次の限度で認められる(国甲一一)。

(1) 物件損害

電車車両(丸の内線車両二本、日比谷線車両三本)に関する座席シート修理費、内装修理費、床敷物修理費、座席布団及び背摺布団張替え費用並びに東武車両に関する車両修繕費の諸費用の合計一〇七〇万円、制服上衣二七六着、ズボン二八〇着及びリース布団補償費の合計五八〇万円を認めることができるが、「その他」の項目で計上された二七〇万円については、その詳細を確知しえないから、債務者が負うべき損害額としては認められない。

(2) 経費損害

まず、事件処理費用として、振替輸送費一二五〇万円、汚染物処理費用二〇〇万円の合計一四五〇万円を認めることができるが、申立債権者国が「その他」の項目で計上する二七〇万円については、その詳細を確知しえないから、債務者が負うべき損害額としては認められない。また、申立債権者国が損害として計上する香典・花輪代一〇〇万円についても、これが前記認定の地下鉄サリン事件におけるサリン散布行為と相当因果関係のある損害であると認めるに足りる資料はないから、債務者が負うべき損害額としては認められない。

また、職員(西村四郎及び春沼良夫)死亡による損害として、葬儀費用等に七〇〇万円、特別弔慰金に二〇〇万円、追悼式費用に一二〇万円、遺族補償付加一時金に五六〇〇万円、葬祭料付加金に二五〇万円の支出をしていることを主張する。しかしながら、右の葬儀、追悼式費用はこれを債務者において賠償すべき損害額として認めることができない。そもそも死亡した者に対する葬儀、追悼の費用は、当該死亡者の社会的地位、職業、資産状態、生活程度等を考慮のうえ、社会通念上相当と認めるべき範囲の限度においてのみ、これを負担した遺族の損害として加害者側が賠償すべきものと考えられるところ、右の葬儀、追悼式費用は、営団によるいわゆる社葬の費用として支出されたものと窺われる。そして、いわゆる社葬とは、死亡者の使用者である会社等が遺族による葬儀とは別に、従業員の生前の功労等に対して弔意を表するために自己の負担において営むものであり、いまだ一般社会において必ずしも慣行化しているとまではいえないから、これによる諸費用の支出をもって右サリン散布行為と相当因果関係のある損害と認めることはできない。なお、本件において、社葬のほかに遺族自身による葬儀が営まれず、遺族が社葬をもってこれに代えたものと認めるべき事情も窺われないし、そもそも、前記1(二)(2)アにおいて、地下鉄サリン事件における死亡者各自につき葬祭費用一二〇万円を認めているものでもある。さらに、特別弔慰金、遺族補償付加一時金、葬祭料付加金も、営団が、特に同営団のために殉職した従業員を弔い、その遺族を慰めるために遺族に対して支給する金員であると解されるところ、かかる金員の支給が一般社会において必ずしも慣行化しているものとまでは認められないから、これもまた相当因果関係に立つ損害ということはできない。

(3) 営業損害

地下鉄サリン事件の当日の電車運休による欠収として四八〇万円のうべかりし利益の損失があったことが認められる。

そうすると、債務者が営団に対し、前記認定の地下鉄サリン事件におけるサリン散布行為と相当因果関係にある損害として負うべき損害賠償額は、合計三五八〇万円を限度に認めることができる。

4  したがって、負債額の合計は、次のとおりである。

(一) 松本サリン事件死亡者・加療期間不詳者等の損害賠償額合計 六億一八四九万七四三六円

(二) 地下鉄サリン事件死亡者・加療期間不詳者の損害賠償額合計 一一億二九八七万四三八一円

(三) 松本サリン事件負傷者入通院慰謝料 二一六〇万四二〇〇円

(四) 地下鉄サリン事件負傷者入通院慰謝料 三億七九六一万九四〇〇円

(五) 労働者災害補償 一億八三九七万〇〇一一円

(六) 犯罪被害者補償 四七五七万六〇〇〇円

(七) 政府管掌健康保険 〇円

(八) 厚生年金・国民年金 〇円

(九) 国家公務員災害補償 九九万七三六〇円

(一〇) 防衛庁職員災害補償 二七八万二五一九円

(一一) 地方公務員災害補償基金 一九八〇万四三八〇円

(一二) 帝都高速度交通営団 三五八〇万〇〇〇〇円

右合計金額 二四億四〇五二万五六八七円

二  資産について

1  不動産

証拠(国甲九の一ないし二四、甲九の二四の二、甲九の二五ないし五七)によれば、債務者が後記(一)ないし(一六)記載の不動産を所有していることが認められる。そして、債務者所有の不動産の評価に際して、固定資産評価証明があるものについては、これを基準とし、これがない場合には、適宜、路線価や近隣の取引事例を基準とした。

(一) 東京都江東区亀戸七丁目四九番二〇号の土地

同区亀戸七丁目四九番地二〇所在、家屋番号四九番二〇の二の建物

(別表11No.1及び2)

債務者が宗教法人である関係上、その所有にかかる標記土地建物ともに固定資産税非課税でありその固定資産評価証明がない。

証拠(民D甲二一別紙イ)によれば、平成七年の公示価格において、右土地の近隣地である同区亀戸七丁目五八番一三号の土地が一平方メートル当たり四九万五〇〇〇円の評価額であることが認められ、これを基準とすると、当該土地は、九五九二万一一〇〇円の評価額となる。

右建物については、登記官の認定価格(国甲一七)を基準とすると、次のとおりとなる。

鉄骨造・事務所 一平方メートル単価 九万九〇〇〇円…①

鉄骨造・倉庫 一平方メートル単価 六万二〇〇〇円…②

鉄骨造・道場 一平方メートル単価 九万九〇〇〇円…③

三棟の建物の平均単価(①ないし③の合計金額を三で除した金額である八万六六六六円、ただし円未満切捨)に総床面積である九九六・七四平方メートルを乗じると、八六三八万三四六八円となる。

八万六六六六円×九九六・七四平方メートル=八六三八万三四六八円(円未満切捨)

土地 九五九二万一一〇〇円

建物 八六三八万三四六八円

(二) 東京都世田谷区若林一丁目一八番三の土地(持分一〇万分の二八二四)同区若林一丁目一八番地三所在の藤和シティコープ若林の六階部分

(別表11No.3及び4)

別表11No.3及び4のとおり、固定資産評価証明を基準として評価した。

ただし、建物の平成七年度固定資産評価額は二八三万八二〇〇円であるところ、当該建物には、抵当権者を中央信託銀行株式会社、債務者をイ、被担保債権額二七〇〇万円とし、平成元年九月二七日付で抵当権設定登記がされており、剰余の生じる見込みがないから、評価額は零円とした。

(民E甲四、甲五八、甲五九、国甲九の四、甲一〇の一及び二)。

土地 一六五三万八八八一円

(三) 東京都練馬区富士見台一丁目一四七番六〇の土地

同区富士見台一丁目一四七番六六の土地

同区富士見台一丁目一四七番地六〇、一四七番地六六所在の家屋番号一四七番六〇の建物

(別表11No.5ないし7)

別表11No.5ないし7のとおり、固定資産評価証明を基準として評価した(民E甲六〇、国甲一〇の三ないし五)。ただし、右土地、建物については、根抵当権者を株式会社三和銀行、債務者をロ、極度額を一五〇〇万円とし、昭和四八年一月二二日付で根抵当権設定登記がされ、昭和五五年七月二六日に極度額を二五〇〇万円に変更する旨の登記がされている(民E甲五ないし七、国甲九の五ないし七)ことから、右固定資産評価額に応じて二五〇〇万円を按分した割付額(円未満切捨)を算出したうえ、それぞれの割付額を右固定資産評価額から控除した額をもって評価額とした(なお、右割付額につき円未満切捨の処理をしたため、一円の誤差が生じている。)。

No.5練馬区富士見台一丁目一四七番六〇の土地

固定資産評価額である四二四五万二七四〇円から一二二九万四四九五円(割付額)を控除すると、三〇一五万八二四五円となる。

No.6同区富士見台一丁目一四七番六六の土地

固定資産評価額である三六九六万一六五〇円から一〇七〇万四二五二円(割付額)を控除すると、二六二五万七三九八円となる。

No.7同区富士見台一丁目一四七番地六〇、一四七番地六六所在の家屋番号一四七番六〇の建物

固定資産評価額である六九一万〇三〇〇円から二〇〇万一二五二円(割付額)を控除すると、四九〇万九〇四八円となる。

土地建物合計 六一三二万四六九一円

(四) 千葉県東金市山口字鳥井前一〇八三番二四の土地(別表11No.8)

別表11No.8のとおり、固定資産評価証明を基準として評価した(民E甲六六)。

土地 五二五万三七四一円

(五) 栃木県那須郡那須町大字漆塚字狩下二一一番五五の土地(別表11No.9)

別表11No.9のとおり、固定資産評価証明を基準とし、地目が山林であり右評価額が低いので、右金額の一〇倍をもって適正な評価額とした(民E甲六七、国甲一〇の一二)。

土地 一〇〇〇万円

(六) 山梨県西八代郡上九一色村富士ケ嶺三九番一、同所八二一番一、同所八六九番五、同所八七七番二、同所九二五番一、同所九二五番二、同所九二五番五、同所一一五三番二、同所九二三番二の各土地(別表11No.10ないし18)

別表11No.10ないし18のとおり、No.10ないし15、17については固定資産評価証明を基準とした(国甲一〇の六)が、No.16及びNo.18については固定資産非課税で固定資産評価証明がないので、No.16は土地名寄帳(国甲一七別紙3)を基準とし、No.18は近傍原野の固定資産評価額が一平方メートル当たり一万〇二九〇円であるので同額を基準とした(国甲一七)。

右九筆の土地合計 三億五四九三万三〇三〇円

(七) 山梨県西八代郡上九一色村富士ケ嶺一一五三番地二所在の建物(床面積合計九八六・二五平方メートル、通称「第二サティアン」)、同所一一五三番地二所在の建物(床面積二五〇・七三平方メートル)、同所一一五三番二所在の家屋番号一一五三番二の建物(床面積合計九九〇・〇〇平方メートル、通称「第三サティアン」)、同所三九番一及び三九番二所在の建物(床面積一九四・〇〇平方メートル)、同所三九番一及び三九番二所在の建物(床面積一九八・七四平方メートル)、同所三九番一及び三九番二所在の建物(床面積二〇三・一三平方メートル)、同所三九番一及び三九番二所在の建物(床面積二二三・六八平方メートル)、同所三九番一及び三九番二所在の建物(床面積一九七・三七平方メートル)、同所三九番一及び三九番二所在の建物(床面積二二三・六八平方メートル)、同所一一五三番地二所在の家屋番号一一五三番二の二の建物(床面積合計二九二〇・五〇平方メートル、通称「第五サティアン」)、同所九二五番地二所在の家屋番号九二五番二の建物(床面積合計一六三三・五〇平方メートル、通称「第七サティアン」)、同所三九番地一及び三九番地二の家屋番号三九番一の建物(床面積合計二九四六・三〇平方メートル、通称「第六サティアン」)(別表11No.19ないし30)

右各建物は固定資産非課税で固定資産評価証明がないため、別表11No.19ないし30のとおり、家屋名寄帳を基準として評価した(国甲一七別紙4)。

右一二棟の建物合計 五億六一七三万五八二七円

(八) 山梨県南巨摩郡富沢町大字福士西根熊一六〇五三番、同所自一六〇五四至一六〇六七番(合併)、同所一六〇六八番、同所一六〇六九番、同所一六〇七〇番、同所一六〇七一番、同所一六〇七二番、同所一六〇七三番、同所一六〇七四番、同所一六〇七五番、同所一六〇七六番、同所一六〇七七番、同所一六〇七八番、同所一六〇七九番、同所一六〇八〇番の各土地

(別表11No.31ないし45)

別表11No.31ないし45のとおり、固定資産評価証明を基準とし、地目が原野、山林であり右評価額が低いので、いずれも右金額の一〇倍をもって適正な評価額とした(民E甲六一の一及び二、国甲一〇の七)。

右一五筆の土地合計 一二七万三三九〇円

(九) 長野県松本市大字芳川野溝字野溝五二七番三の土地、同所五二七番地三所在の家屋番号五二七番三の建物(別表11No.46及び47)

別表11No.46及び47のとおり、土地については、固定資産非課税で固定資産評価証明がないため、近傍宅地の固定資産評価を基準とし、建物については、固定資産評価証明を基準とした(国甲一〇の九)。

土地建物合計 五七七九万八四三一円

(一〇) 大阪府大阪市中央区久太郎町三丁目三二番五の土地、同所三〇番地一、三一番地一、三二番地五、三二番地三、三二番地四所在の家屋番号三二番五の一、三二番五の二、三二番五の三、三二番五の四、三二番地五の五、三二番五の六、三二番五の七、三二番五の八の各建物(床面積合計八三四・六三平方メートル)(別表11No.48及び49)

右土地及び建物は、固定資産非課税で現時点における固定資産評価証明がないため、土地については大阪法務局平成五年八月二六日受付第二〇三七三号登記申請書に添付された固定資産評価証明書(大阪市長平成五年八月二四日税証第七三二五号)により、建物については同法務局平成五年八月二六日受付第二〇三七四号登記申請書に添付された固定資産評価証明書(大阪市長平成五年八月二四日税証第七三二四号)により、評価額を見積もった(国甲一七)。

土地 一億二四二三万四〇〇〇円

建物 五六四七万五〇〇〇円

(一一) 和歌山県那賀郡桃山町大字神田字鷹巣尾七四一番四五四の土地(共有持分二分の一)(別表11No.50)

別表11No.50のとおり、固定資産評価証明を基準とし、地目が山林であり右評価額が低いので、右金額の一〇倍をもって適正な評価額とした(民E甲六九、国甲一〇の一九)。

土地 二九二万〇〇〇五円

(一二) 愛知県加茂郡下山村大字田代字イヤ田三七番五の土地、同所三七番一の土地(共有持分三一分の一)(別表11No.51及び52)

別表11No.51及び52のとおり、固定資産評価証明を基準とし、地目が山林であり右評価額が低いので、右金額の一〇倍をもって適正な評価額とした(民E甲六八)。

右二筆の土地合計 二〇万二〇〇〇円

(一三) 熊本県阿蘇郡波野村中江字上大河原五四二番、同所五四四番一、同所五四四番二、同所五四四番三、同所五四五番二、同所五四六番、同所五四七番の各土地(別表11No.53ないし59)

別表11No.53ないし59の各土地については、証拠によれば、熊本地方裁判所平成二年(ワ)第七一六号及び平成三年(ワ)第一二六二号の各損害賠償請求事件において、平成六年八月九日、同事件被告の波野村が同事件原告及び利害関係人(債務者及び債務者の信者)に対し、平成九年四月二〇日を最終支払期として計九億二〇〇〇万円の和解金を支払うこと、原告債務者が被告波野村に対し、平成九年八月末日限り別表11No.53ないし59の各土地を贈与し、前記損害賠償金の支払のうち、平成六年八月三〇日支払予定の五億円の支払と引換えに、平成九年八月末日を始期とする始期付所有権移転仮登記手続をし、平成九年八月末日限り、右各土地の所有権を波野村に移転し、右の始期付土地所有権移転仮登記に基づき波野村に対し、平成九年八月末日贈与を原因とする所有権移転登記手続をすることなどを内容とする裁判上の和解が成立したことが認められる(民B甲五一)。

右和解の形式上は、波野村が債務者らに対して支払う九億二〇〇〇万円の和解金と、債務者が波野村に対して贈与する右各土地の所有権移転とは対価関係にないものであるが、右和解金の分割金の頭金ともいうべき五億円の支払と引換えに右各土地の仮登記がされ、最終弁済期の四か月後である平成九年八月末日限り移転登記手続をする約定であること、右訴訟の損害賠償請求の総額が一億三八〇〇万円であり(民B甲五一)、右和解金との間にかなりの差があることからすると、右和解の実質的内容としては、波野村が右土地を被告から買い取るものであると解するのが相当である。そうすると、右各土地の評価額は、右和解金の総額に含まれていると解することができ、後記のように右和解金を債務者の資産に計上する以上、ここで、前記波野村所在の各土地の評価を重ねて計上することは相当でない。

したがって、ここでは右各土地の評価を零円として計上した。

(一四) 熊本県熊本市春日五丁目一五五番の土地(別表11No.60)

別表11No.60のとおり、固定資産評価証明を基準として評価した(民E甲六二)。

土地 二六八九万九二六四円

(一五) 北海道小樽市塩谷四丁目一三六番一、同市塩谷四丁目一三六番三、同市塩谷一三六番四の各土地(別表11No.61ないし63)

別表11No.61ないし63のとおり、固定資産評価証明を基準とし、地目が原野であり、右評価額が低いので、右金額の一〇倍をもって適正な評価額とした(民E甲六四、国甲一〇の一〇)。

右各土地合計 二一六万一九八八円

(一六) 北海道厚田郡田村大字厚田村字ハツタリ一〇一七番一一、同所一〇一七番一三の土地(別表11No.64及び65)

別表11No.64及び65のとおり、固定資産評価証明を基準とし、地目が山林であり、右評価額が低いので、右金額の一〇倍をもって適正な評価額とした(民E甲六五、国甲一〇の一一)。

右二筆の土地合計 四七万七六七〇円

(一七) 山梨県南巨摩郡富沢町大字福士西根熊所在の建物(通称「清流精舎」の工場、別表66)

未登記建物である。債務者所有土地(別表11No.31ないし45)上に存在していることから、債務者所有物件であるとして、これを資産として計上することとする。その評価額については、申立債権者らは、右建物が銃器密造工場であったことが広く報道されているなどの事情をあげ、これを零円として評価すべきものとしているが、たとえ、当該建物が銃器製造工場であったとか、建築基準法等の法令違反の建物であったとしても、それは減価の要因になるにとどまり、基礎となる評価額は算出すべきである。ここでは、破産原因を慎重に認定するため、前記bの意見書及び意見書(二)記載のとおり、当該建物を二億五四三一万三六〇〇円と評価することとする。

(一八) 山梨県西八代郡上九一色村富士ケ嶺所在の建物(倉庫、床面積九六三・五五平方メートル、別表11No.67)、同所所在建物(事務所工場、床面積六八五・三六平方メートル、別表11No.68)、同所所在建物(礼拝場、床面積三三九一・九平方メートル、別表13No.69)

いずれも未登記建物である。bはこれらの建物についても債務者所有のものと主張する。地番の表示がなく、債務者所有のものであるか疑わしい面もあるが、ここでは、破産原因について慎重に判断するために、債務者所有の不動産として扱い、かつ、右(一七)と同様の理由で、bの主張する金額で評価することとする。

右三棟の建物合計 二億九七四〇万七七九〇円

(一九) 山梨県西八代郡上九一色村富士ケ嶺三二二番二所在の建物六棟(いずれも工場、床面積各一九八・八六平方メートル、別表11No.70ないし75)、同所所在の建物(工場、床面積二三・七六平方メートル、別表11No.76)、山梨県西八代郡上九一色村富士ケ嶺三二二番二所在の建物(工場、床面積二〇・三八平方メートル、別表11No.77)

いずれも未登記建物である。bはこれらの建物についても債務者所有のものと主張する。債務者所有のものであるか必ずしも判然としない面もあるが、ここでも、破産原因について慎重に判断するために、債務者所有の不動産として扱い、かつ、右(一七)と同様の理由で、bの主張する金額で評価することとする。

右八棟の建物合計 六四九二万四〇〇〇円

(二〇) bは、意見書及び意見書(二)なる書面において、前記(一)ないし(一九)に記載した不動産以外にも、債務者名義にはなっていないが、清算人が所有権移転登記抹消登記手続請求訴訟を提起している不動産や、今後同様の訴えを提起するであろうことが予想される不動産があることを理由として、これらの不動産も実質的に債務者の資産に含めて積極資産を計算すべきと主張しており、その対象物件として債務者の関連法人である株式会社オウム、有限会社ぶれーめん、株式会社ダルマパーラ、株式会社神聖真理発展社、債務者の信者であるdら等々の所有名義になっている多数の土地、建物の存在を指摘している。そして、申立債権者らにおいても、右不動産の多く及び独自に調査した複数の不動産が、平成七年八月三日以降に債務者による資産隠しの一環として、売買、錯誤等を原因としながら、所有権移転登記手続等の申請がされたものであり、これら諸物件は、破産管財人の否認権行使等により破産財団に回復されるべき財産である旨を主張しているところでもある。しかしながら、破産原因の有無は、破産宣告時(即時抗告があるときはその即時抗告に対する裁判時)を基準時として判断すべきものであり、その前提となる破産者の資産の存在及び評価についても、右時期において認定できるものに限る必要があるし、そもそも破産管財人による否認権行使は、否認権が破産宣告の効果としてはじめて発生する権利であって、その行使が破産管財人に専属するものである以上、破産宣告の可否を判断するについて否認権行使の結果を予測、考慮することは相当でない。したがって、右bの主張するように、将来、債務者の資産が増える可能性があったとしても、それは破産原因の有無の判断に影響することはないものである。また、実質的に債務者の所有する右多数の不動産があるとの点についても、本件証拠上、これを確定するに足りる資料がない。

(二一) 以上によれば、債務者所有の不動産の価格合計は、前記(一)ないし(一九)のとおり、二〇億八一一七万七八七六円となる。

ただし、これは、破産原因である債務超過及び支払不能の有無を判断するにあたり、債務者の不利にならないように、評価額を高めに見積もった結果であり、この金額が即当該不動産の取引価格、正常価格の合計を示したものとなるわけではない。特に、債務者の幹部や信者らによって犯罪行為の一部又は全部が現実に行われた施設やその特殊な構造から汎用性に欠ける建物については、相当な減価が見込まれ、場合によっては、無価値の建物として取り壊すしかなくなるばかりでなく、その敷地の購入希望者との売却交渉において、当該建物価格を計上できず、ひいては、そのような阻害物件が存在することによる敷地価格からの相当な減価をしなければならなくなることも十二分に予想されるところである。また、化学薬品による土壤汚染が存したり、そのおそれが存する土地もあり、これまた相当な減価をせざるをえないと予想される。

2  現金・動産・債権

(一) 本件記録によれば、破産宣告前の保全処分(当裁判所平成七年(モ)第八二九五七号)によって仮差押えを受けている債務者所有の現金・動産は、別表12No.1ないし120のとおりであることが認められる。ただし、仮差押えを受けている動産であっても、第三者名義のラベルが貼ってあったことが明らかであるものについては、直ちに債務者所有の物件と断ずることはできないので、これを債務者の資産からはずし、別表12には掲げていない。

逆に仮差押えの執行時に、債務者側の立会人及び信者から当該物件が債務者所有物ではない旨の指摘を受けた物件については、その指摘を客観的に裏付ける資料もないので、本件破産原因の判断に際しては、とりあえず債務者の資産として取り扱った。

動産の評価にあたっては、執行官の評価がある場合にはそれにより、執行官の評価がないときは、右執行官の評価額を参考として、パソコンと複写機は一台二万円、それ以外の動産は一台一万円として評価した(別表12中、☆印が付いているものは、執行官による評価以外のものである。)。

そうすると、別表12No.1ないし120の現金及び動産の評価額の合計は、九八三万八五〇〇円となる。

(二) 波野村和解金

前記1(一三)に説示したように、債務者及び信者らは、平成六年八月九日、熊本地方裁判所において、熊本県阿蘇郡波野村と裁判上の和解をし、その結果、波野村は、債務者及び二〇九名の信者に対し、合計九億二〇〇〇万円を、平成六年八月三〇日に五億円、残金四億二〇〇〇万円を六回に分けて、平成七年から平成九年まで毎年四月二〇日及び八月末日に各七〇〇〇万円ずつ支払うこととなった(支払は、債務者及び信者らの分を一括して債務者の銀行口座に振り込む方法による。)。そして、本件審問の全趣旨によれば、右和解金のうち、支払日平成六年八月三〇日の五億円、支払日平成七年四月二〇日の七〇〇〇万円は既に債務者らに支払済みであること、支払日同年八月末日の七〇〇〇万円は債務者預金口座に振り込まれた直後に、債務者の預金債権として仮差押えを受けたこと、右支払済みのものを除く和解金残金が二億八〇〇〇万円あることが認められる。

したがって、債務者の資産となるべきものは、右仮差押えにかかる七〇〇〇万円の預金債権(この預金債権はあくまでも債務者に帰属する債権であり、他の信者らは債務者に対する分配請求権を有しているにすぎず、信者らの右請求権は、破産手続上、一般破産債権となるものである。)と二億八〇〇〇万円の和解金残金ということになる。ただし、右和解金残金は、履行期が到来していないため債務者名義の銀行口座に振り込まれていないものであるが、和解条項の文言上、債務者を含む二一〇名の分割債権とされており、他に別段の定めも認められない以上、それぞれ平等割合の分割債権を有しているものと解するのが相当である(民法四二七条)。そうすると、債務者の波野村に対する和解金残債権は、二億八〇〇〇万円の二一〇分の一にあたる一三三万三三三三円(円未満切捨)にすぎないことになる。

(三) 清算人の報告書によれば、清流精舎の工場内及び上九一色村の第九サティアン、第一一サティアン内にある工作機械類の合計評価額は五四一〇万五五〇〇円、右工場内にある機械付属用品、工具類、機材等合計概算は一億五〇〇〇万円であることが認められる。

(四) 以上の債務者所有の現金、動産及び債権を合計すると、別表12のとおり、二億八五二七万七三三三円となる。

3  そうすると、債務者所有資産の評価額は、不動産二〇億八一一七万七八七六円と現金、動産及び債権合計二億八五二七万七三三三円との総合計二三億六六四五万五二〇九円となる。

三  1 以上の次第で、債務者は、その負債合計が少なくとも二四億四〇五二万五六八七円であるのに対し、所有資産の評価額が二三億六六四五万五二〇九円にすぎないから、七四〇七万〇四七八円の債務超過の財産状態にあるということができる。

右債務超過額は、総負債額及び総資産額に比すると、僅少のように見えないではないが、それぞれの評価において示したように、負債については控え目に評価をし(この控え目に行った当裁判所の認定額が後日の破産管財人の債権調査を拘束し、異議なき債権額の上限を画するものでないことは当然である。)、資産については、多めに評価した(特に、上九一色村の建物や清流精舎と呼ばれる建物については、汎用性等の観点から見れば、ほとんど無価値であると思われるにもかかわらず、合計一一億円を超えるものと評価した。)結果によるものであるから、債務者が破産原因の一つである債務超過の状態にあると評価するのに何らの妨げもないというべきである。

なお、証拠上、債務者のサリン生成に使用した原材料、密造された塩酸フェニルメチルアミノプロパン(国甲一六)等の諸種の薬品類が債務者の下に残存している可能性を否定できないところであるが、仮に、債務者の有する何らかの薬品類が存するとしても、右塩酸フェニルメチルアミノプロパン等はそもそも法禁物として債務者による私的所有を認めることはできないし、また、右塩酸フェニルメチルアミノプロパンやサリン等の原材料についても、甲野やその他の債務者の信者らの刑事裁判の帰趨いかんによっては、没収の対象とされる可能性が十二分に予測されるところのものである。さらに、一件記録上、債務者において複数の車両を所有している可能性も否定できないところであるが、証拠上は、昭和五九年初度登録の車両一台の所有しか確認できない(民B五五)。このような債務者による薬品類や車両の所有ないしその可能性を考慮しても、前示した債務超過の財産状態の判断に消長をきたすものではない。

2 ちなみに、前記認定の事実及び一件記録を総合すれば、債務者は既に支払不能の財産状態にもあるということができる。すなわち、

前記認定の債務者の負債はすべて不法行為に基づく損害賠償債務であるところ、右損害賠償債務は損害の発生と同時に遅滞に陥り、直ちに弁済せねばならない性質のものであって、現に被害者らから債務者に対しその損害賠償を求める民事訴訟が数多く提起されていることは当裁判所に顕著である。

ところが、債務者の資産状態としては、その資産のほとんどが不動産であり、かつ、その中には、前示のように無価値と思われる上九一色村、清流精舎の建物のように客観的には極めて換価性の乏しいものが多数存在していること、また、上九一色村、清流精舎の工場の中にある機械類は刑事事件において差押えがされており換価に適さず、七〇〇〇万円の預金債権も仮差押えを受けていて直ちに弁済の用に当てられないこと、さらに、当裁判所の破産宣告前の保全処分としての動産仮差押によっても、債務者のもとに存在した現金としてはわずかに四三九万六五〇〇円が明らかになっただけであって、その他の動産類についても換価価値のあるものはほとんど発見されなかった。

したがって、債務者において、前示の損害賠償債務を支払うことは到底不可能な状態にあるものと判断せざるを得ない。

第三  結論

よって、本件破産の申立ては理由があるから、破産法一二七条一項(あるいは、同法一二六条一項)の規定を適用して、主文のとおり決定する。

なお、同法一四二条の規定により次のとおり定める。

一  破産管財人

東京都港区西新橋一丁目二二番七号 丸万七号館三階

弁護士 阿部三郎

二  債権届出期間 平成八年七月六日まで

三  債権者集会の期日及び債権調査の期日

平成八年九月二五日午後二時三〇分

平成八年三月二八日午前一〇時宣告

別表<省略>

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